東京地方裁判所 平成7年(ワ)865号 判決 1998年3月19日
原告
諏訪浩之
原告兼右法定代理人後見人
諏訪繁
原告
諏訪志乃婦
右三名訴訟代理人弁護士
升永英俊
同
重田樹男
同
福井健策
同
小原恒之
右升永英俊訴訟復代理人弁護士
唐津真美
同
池田知美
被告
松島曻
右訴訟代理人弁護士
東谷隆夫
同
鹿士眞由美
同
滝野俊一
主文
一 被告は、原告諏訪浩之に対し、金一億九〇二六万一〇〇八円、同諏訪繁、同諏訪志乃婦に対し、各金二一〇万円、及びこれらに対する平成五年二月八日から支払済みまで各年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その四を原告らの、その余を被告の、各負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 原告らの請求
被告は、原告諏訪浩之に対し、金一〇億四二七九万九四七九円、同諏訪繁に対し、金五〇〇万円、同諏訪志乃婦に対し、金八〇八万六〇〇〇円、及びこれらに対する平成五年二月八日から支払済みまで各年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 本件は、自動二輪車を運転中、四輪車と衝突する交通事故に遭い、重度後遺障害を負った原告諏訪浩之(以下「原告浩之」という。)らが、加害車両の運転者である被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償を請求した事案である。
二 争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実(以下「争いのない事実等」という。)
1 原告らの身分関係
原告諏訪繁(以下「原告繁」という。)は、原告浩之(昭和四七年二月一二日生、事故当時二〇歳)の父であり、原告諏訪志乃婦(以下「原告志乃婦」という。)は、原告浩之の母である(甲六三、原告志乃婦本人、弁論の全趣旨)。
2 本件交通事故の発生
原告浩之は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)により、脳挫傷(びまん性軸索損傷)等の傷害を受けた。
事故の日時 平成五年二月八日午後六時ころ
事故の場所 栃木県宇都宮市鶴田町一五四五番地一先路上(別紙交通事故現場見取図参照。以下、同道路を「本件道路」といい、同図面を「別紙図面」という。)
加害車両 普通乗用自動車(栃木三三に三二五三)
右運転者 被告
被害車両 自動二輪車(栃木ら九〇七六)
右運転者 原告浩之
事故の態様 本件道路から路外の駐車場に右折しようとした加害車両と、本件道路を対向直進中の被害車両とが衝突した(なお、事故の詳細については、当事者間に争いがある。)。
2 原告浩之の入院経過及び後遺障害等
(一) 原告浩之は、次の各病院で治療を受け、退院後は、肩書住所地の自宅において原告志乃婦等の介護を受けている。
宇都宮第一病院 平成五年二月八日から平成六年四月一〇日まで四二七日間入院
上都賀総合病院 平成六年四月一一日から同年七月一六日まで九七日間入院(同年七月一四日症状固定。当時二二歳)
東芝病院 平成五年八月通院(実日数一日)
(二) 原告浩之は、平成六年八月一日自動車保険料率算定会宇都宮調査事務所により、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下「後遺障害別等級表」という。)上の一級三号(「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」)に該当する旨の認定を受けた(甲三)。
なお、原告浩之は、同年一〇月一四日、宇都宮家庭裁判所において、禁治産宣告を受け、その後見人として原告繁が選任された(甲二)。
3 責任原因
被告は、加害車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであり、また、路外施設に右折進行するに際し、対向直進車両の有無及び動静についての安全確認を怠った過失があるから、自賠法三条ないし民法七〇九条に基づき、原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。
4 損害の填補
原告浩之は、被告の自賠責保険から三〇〇〇万円、任意保険から一五四三万一三一六円(右合計四五四三万一三一六円)の填補を受けた。
三 本件の争点
本件の主要な争点は、本件事故の態様(過失相殺)と損害額であり、被告は、原告浩之の推定余命年数及び生活費控除率を争っている。
1 本件事故の態様(過失相殺)
(一) 被告の主張
本件道路は、原告浩之の進行方向からは、前方の見通しは良好であるが、右方の見通しは不良であり、原告浩之は、本件道路を制限速度を大幅に上回る高速度で進行した過失があるから、原告らの損害額を算定するに当たっては、原告浩之の右の過失(原告繁、同志乃婦の損害額については、被害者側の過失として)を三〇パーセント程度斟酌すべきである。
(二) 原告らの認否及び反論
(1) 原告浩之に速度制限違反の過失があるとする点については、争う。
(2) 被告の刑事事件においては、被害車両の速度は、鑑定不能とされており、被害車両が制限速度を超過していたとの事実は確定されていない。
また、被告の供述には、被害車両を認めた地点について捜査段階と公判段階の供述内容に変遷がみられるほか、加害車両の右折当時、対向車線の目前にいた停車車両を記憶にないと述べる等、不自然な点が多く、これを判断の基礎にすることはできない。
本件道路は、中央分離帯により区分された交通量の多い道路であり、高速度で進行する車両が多いのであるから、被告としては、本件道路の対向車線を横切り、路外施設に進行するに際し、対向車両の有無及び動静について十分注意すべきところ、被告は、駐車場の入口がどこにあるのかに気を取られ、この点の注意を欠いた上、右折の合図をしないまま、進行を開始したものであるから、仮に原告浩之に制限速度違反等の過失があったとしても、その割合は極めて少ないというべきであり、本件事故において過失相殺をするのは相当でない。
2 原告らの損害額
(一) 原告らの主張
(1) 治療費
合計一八七〇万一〇三三円
ア 宇都宮第一病院分
一四三四万六七八七円
(このうち、被告の既払分は、七九〇万一二一一円である。)
イ 上都賀総合病院分
三九四万八八四二円
(このうち、被告の既払分は、七六万六九四二円である。)
ウ 東芝病院分 二六〇四円
エ 柔道整復師(泰明堂)施術費(既払分) 四〇万二八〇〇円
(2) 文書費(診断書、鑑定費用)等
一〇万五七三〇円
(3) 付添介護費
七億三七三〇万二三六六円
原告浩之は、後遺障害のため、独力で日常生活を営むことは不可能であり、今後終生にわたり、常時近親者らの付添介護を要すべきところ、原告浩之の介護には、唾や痰の吸引、流動食による食事の世話、水分補給、呼吸監視、排便処理、身体の清拭、体位交換等に多大な手間と労力を必要とし、これを原告志乃婦一人が二四時間態勢で対処することは、到底困難であり、専門の家政婦三人による介護が必要である。
ア 平成五年二月八日から平成七年二月二一日(原告浩之の二三歳の誕生日の前日)までの七三四日間分
三四五一万〇四七八円
原告志乃婦は、右期間中原告浩之の介護をすべて一人で行ったものであるから、本来必要となるべき一日当たりの介護費用三人分の四万七〇一七円を基礎とし、七三四日間で右金額となる。
イ 二三歳以降の分
七億〇二七九万一八八八円
原告浩之の在宅介護の費用を一日当たり四万七〇一七円、二三歳男子の平均余命期間を五四年間とし、ライプニッツ方式により中間利息を控除し、消費税五パーセントを加算して算定すると、右金額となる。
(4) 入院雑費 五三万九八三二円
ア 近親者入院付添交通費
四〇万一七一一円
イ 諸雑費 一三万八一二一円
(5) 医師等謝礼 五〇万〇〇〇〇円
原告浩之は、宇都宮第一病院、上都賀総合病院入院中、医師及び看護婦らに右謝礼を支払った。
(6) 家屋改造費九〇六万〇三九五円
原告浩之の自宅療養のため、寝室、廊下等の増改築工事をしたほか、これに伴い、エアコン、庭木、庭石等の移設を余儀なくされ、さらに、電気器具等の工事費用も要した。
(7) 備品代 六五〇万七四八〇円
ア ベッド代 二四九万九一一五円
原告浩之は、身体障害者用ベッドを必要とすべきところ、その自己負担額は一台三四万二四一〇円であり、耐用年数が六年であるから、将来の購入費用をライプニッツ方式により、中間利息を控除して算定すると、右金額となる。
イ 車椅子代 三七九万四六三六円
原告浩之は、自宅内の移動等のため、車椅子を必要とすべきところ、その自己負担額は一台一〇万五六六八円であり、耐用年数が三年であるから、将来の購入費用をライプニッツ方式により、中間利息を控除して算定すると、右金額となる。
ウ 点滴スタンド等医療器具代
二一万三七二九円
(8) 将来的消耗品費
一五一四万〇〇九五円
原告浩之は、自宅療養に際して、紙おむつ、ティッシュペーパー等の消耗品の支出が不可欠となるところ、その費用は少なくとも一日当たり一〇〇〇円を下らないから、平均余命五五年間分につき、ライプニッツ方式により中間利息を控除して算定し、さらに消費税五パーセントを加算すると、右金額となる。
(9) 逸失利益
二億五三五一万〇五六九円
原告浩之は、本件事故の後遺障害により一〇〇パーセントの労働能力を喪失したものであるが、本件事故当時、国立宇都宮大学工学部応用工学科三年に在籍し、主要科目で優を取得していたほか、平均良以上の成績を納める優秀な学生であり、本件事故に遭わなければ、卒業後の平成六年四月から就労を開始し、六七歳までの四五年間にわたり、少なくとも賃金センサス平成六年第一巻第一表全産業一〇〇〇人以上の従業員規模の企業の大卒男子労働者全年齢平均給与額と同程度の収入額である七四〇万二五〇〇円を得ることができたと推認されるので、右金額を基礎とし、ライプニッツ方式により、中間利息を控除して、症状固定時における逸失利益の現価を算定すると、前記金額となる。
なお、中間利息の控除については、損害賠償制度が、被害者に生じた損害を金銭的に評価し、これを加害者に賠償させることにより被害者が被った不利益を補填して、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とすることに照らせば、将来の損害金と、それを現価に換算した金額とは実質的に等価であることを要するというべきであり、そのためには、中間利息を民事法定利率でなく、実質金利にインフレによる物価上昇率を考慮した実質運用利率によるべきところ、これを控えめにみて、昭和五三年から平成七年までの平均値1.26パーセントとするのが相当である。
(10) 休業損害(原告志乃婦分)
一四一万六〇〇〇円
原告志乃婦は、本件事故当時、佐川急便と栃木県のパートタイムの仕事に従事していたところ、本件事故により事故当日の平成五年二月八日から原告浩之の症状固定日である平成六年七月一四日までの間、欠勤し、原告浩之の付添看護を余儀なくされたものであり、その間の休業損害は、右金額となる。
(11) 慰謝料
ア 原告浩之三〇〇〇万〇〇〇〇円
イ 近親者慰謝料
原告繁、同志乃婦は、原告浩之が本件事故により、重大かつ悲惨な障害を負い、完治の見込みのないまま日常生活の一切を付添人に依存する悲嘆な生活を送ることを余儀なくされたことにつき、その両親として、原告浩之の死亡に勝るとも劣らない精神的苦痛を被ったというべきであり、慰謝料としては、次の金額とするのが相当である。
原告繁分 五〇〇万〇〇〇〇円
原告志乃婦分 七〇〇万〇〇〇〇円
(12) 弁護士費用
一八六九万〇〇〇〇円
(13) 以上合計(填補後のもの、原告三名の合計額を示す。)
一〇億五八〇四万二一八四円
原告らは、右金額のうち、一〇億五五八八万五四七九円の支払を求める。
(14) 原告浩之の推定余命年数について
自動車事故対策センターは、もともと重度後遺障害者の後遺症や平均余命の調査等を目的とする施設ではなく、その性格上、重度後遺障害者の平均余命に関する網羅的、医学的調査を行うことはできないのであるから、同センターが作成したデータをもとに、交通事故被害者の余命を推定するのは適当でない。
仮に、同センターの統計によるとしても、すべての年齢層を平均してその余命を算出するのは健常人の場合と比較しても著しく不合理であり、事故時の年齢が若年であるほど回復の可能性が高いのであるから、少なくとも、世代別データに基づいて検討すべきところ、事故当時二〇歳代の若年者についてみれば、一〇年未満しか生存できなかった者の数よりも、植物状態を脱却した者と一〇年以上生存した者の合計数の方が多い。また、死亡者についての数値は、現に生存し、又は植物状態を脱却した者の存在を無視している。事故当時二〇歳代であった患者の死亡例は、七四件しかなく(しかもそのうち一三年以上生存後死亡した者が九名いる。)、そのような少数のデータを根拠に平均余命期間より短いものと推定することは問題である。のみならず、植物状態患者にも受傷内容、介護状況等のほか、体力、健康度、性別等の差異があり、さらに今後の医療技術、介護技術の向上に伴って、余命が伸長することが予想されることを無視して、平均余命を一〇年程度とすることは相当ではなく、平均余命期間によるべきである。
しかるところ、原告浩之は、症状固定時二三歳と若年であり、本件事故後二年以上を経過しても健康状態は良好であり、一時の危険な状態は既に脱却し、治癒能力もある上、原告志乃婦らの十分な介護を受けており、現状において、原告浩之が平均余命まで生存しないとする理由は見いだしがたい。
(二) 被告の認否及び反論
(1) 原告らの損害額については、いずれも争う。
(2) 原告浩之の推定余命年数(原告浩之の付添介護費、将来的消耗品費、備品代、逸失利益に関わる。)について
原告浩之は、植物状態にあり、植物状態患者の余命年数については、自動車事故対策センターが作成した統計資料(平成五年三月三一日現在)が存在し、これによれば、植物状態の被害者が事故から一〇年以内に死亡する割合は88.3パーセントであり、これを二〇歳代に限定しても70.8パーセントと高率を示し、事故から一〇年以内に七〇ないし九〇パーセントの割合で死亡するに至っており、平成二年三月三一日現在の資料では、事故から一〇年以上生存した者の割合は、全体の23.1パーセントしかない。
また、原告浩之は、自宅介護中、肺炎に罹患しており、一時は生命が危ぶまれたこともあるほか、植物状態患者は検査が難しく、窒息の危険もある上、体力の低下も避けられず、今後原告浩之が平均余命まで生存できる可能性は極めて低いのであるから、これを症状固定後一〇年程度とすべきである。
(3) 生活費控除率について
植物状態患者の場合、将来の生活に必要な費用は、治療費と付添介護費に限定されており、健常人に必要とされる労働能力の再生産に必要な生活費の支出を免れることになるのであるから、原告浩之の逸失利益を算定するに当たっては、生活費として、五〇パーセント控除すべきである。
第三 当裁判所の判断
一 本件事故の態様について
1 前記争いのない事実等に、甲三〇の1、三五ないし三八、三九の1、2、四二の1、四五の1ないし3、四七、五〇の1、2、一五五、一五七、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(一) 本件道路は、栃木県宇都宮市滝谷町(以下、特に記載のない限り同県同市内を示す。)方面から砥上町方面に向かう、歩車道の区別のある片側二車線(対向車線とは中央分離帯により区分されている。)の直線道路であり、宇都宮市街地と鹿沼インターチェンジを結ぶ主要道路のため、交通量は頻繁である。夜間の照明は、暗い。また、本件道路は、最高速度が六〇キロメートル毎時に制限されている(甲一五五、弁論の全趣旨)。本件道路の路面はアスファルトで舗装され、平坦であり、本件事故当時、乾燥していた。
本件道路の見通しは、前方は約八〇メートル見通すことができ、良好であるが、左右の見通しは、約三メートルであり、不良である。
本件事故後、原告浩之の進行経路上の路面には、長さ20.5メートルのスリップ痕一条と、長さ3.5メートルの擦過痕が印象されていた。
(二) 被告は、加害車両を運転し、本件道路から路外のセンチュリーへいあん駐車場に進入するため、右側通行帯の別紙図面(以下、同図面上の地点を指す。)の①地点に停車して、対向車線の車両の流れが切れるのを待ち、対向車両が通過したように見えたことから、右折しようとして、ハンドルを右に切りながら、時速約一五キロメートルで進行したところ、対向車線の右側通行帯(以下「第二車線」という。)の②地点において、地点に被害車両を初めて発見し、ブレーキを掛けたが間に合わず、地点において加害車両の左前輪付近(左前フェンダー、左前バンパー凹損)と被害車両の前部が衝突し、加害車両は、③地点に停止した。
被告は、右折開始当初、駐車場入口は路地の奥にあるものと思っていたが、右折途中、手前にあるのがわかったため、ややユーターン気味に進行した。
(三) 原告浩之は、平成四年三月ころ、兄の友人から被害車両を譲り受け、同年五月ころから、被害車両を通学の際の行き帰りに使用していた(なお、原告浩之は、被害車両を譲り受ける以前から、原動機付自転車を使用して通学していた。)。
原告浩之は、本件事故当日、大学から帰宅するため、ヘルメットを着用して被害車両を運転し、本件道路の左側通行帯(以下「第一車線」という。)を進行中、本件事故に遭い、地点に転倒し、その際の衝撃により、へルメットは脱げて路面に落ち、被害車両は、車体右側面を下にして、地点に転倒した。
被害車両は、本件事故により車体前部が大破し、右側面に擦過痕が認められた。
原告浩之は、本件事故後、救急搬送されたため、本件事故当日の平成五年二月八日午後六時三二分から午後六時五八分まで現場付近において実施された実況見分には、立ち会わなかった。
(四) 被告は、刑事事件の公判段階において、被害車両を初めて発見したとき、加害車両と被害車両の距離は四〇メートル以上あり、被害車両は加害車両が右折をする間にその側方を通過して行くものと思って右折を開始したが、被害車両は思ったより早く来た、被害車両は、時速八〇キロメートル以上出ていた感じがする、衝突したとき加害車両は停止していた等と述べるが(甲三〇の1、五〇の1、2)、これらはいずれも捜査段階の供述と相反しており、その間の供述の不一致について合理的な説明をしていないほか、公判供述は、全体として極めてあいまいであって採用できない(なお、被告が右折の際、合図をしたかどうかにつき、本件事故直前の加害車両の動静を目撃していた諸鹿徳久はこれを否定している上、被告立会の実況見分調書上も、その点明確ではないが、被告は、本件事故前、右折のため、相当の時間その場に待機しており、その間全く右折の合図をしなかったとは考えにくいだけでなく、被告は、捜査段階の当初から右折の合図を出していたと述べており、その他の点については比較的正確に述べているのであるから、この点に関する被告の右供述を排斥するのは相当でない。)。
(五) 被害車両の速度について、被告は、本件事故当時、被害車両が制限速度を大幅に上回る速度で進行していたと述べるが、本件道路の路面には被害車両のスリップ痕が20.5メートル印象されており、路面摩擦係数を0.7(本件道路は、アスファルトで舗装され、乾燥していた。)として、制動痕から制動初速度を算出する次の公式を用いて算定すると、被害車両の速度は、約60.96キロメートルであり、これに被害車両転倒時のエネルギー損失等を加味しても、本件道路の制限速度と比較して、本件事故当時、被害車両が格別これを大幅に上回る速度で進行していたとまでは認められず(なお、甲四七によっても、約62.5キロメートルであり、前記数値と大差ない。)、そうすると、被害車両は、本件事故当時、概ね制限速度程度で進行していたものと推認され、他に右認定に反する証拠はない。
2 右の事実を基礎にして、本件事故の態様について検討する。
本件事故は、路外に出るため右折中の四輪車と対向直進中の単車との事故であるが、被告は、本件道路の対向車線を右折転回しながら、ほぼ横断し、その間、同車線を閉塞する形で進行するのであるから、対向車両の有無及びその動静に十分注意して進行しなければならないにもかかわらず、対向車両の流れが切れたことから、漫然右折進行を開始したため、被害車両の発見が遅れ、その結果、本件事故を引き起こしたものであるから、この点に過失がある(前記スリップ痕の状況に照らすと、被告が被害車両を発見したときには、既に被害車両は制動を開始していることが認められ、被告が被害車両を発見するのが遅れたことは明らかである。)。
他方、本件道路が直線であり、夜間であっても見通しは良好であること、本件事故の衝突当時、加害車両は、ほぼ右折完了に近い状態であることからすると、本件事故当時、原告浩之が前方注視を尽くしていれば(なお、加害車両は右折車両であり、本件事故は交差道路からの出合頭態様の事故ではないが、本件事故現場は信号機により交通整理の行われていない交差点であることから、原告浩之としてはできる限り安全な速度と方法で進行すべきであったということができる。)、本件事故は回避できたものと推認され、原告浩之にも、この点に過失がある。
そして、原告浩之、被告双方の過失を対比すると過失相殺率を判断する前提としての過失の割合は、原告浩之一〇、被告九〇とするのが相当である。
二 原告浩之の症状と推定余命年数について
1 前記争いのない事実等に、甲二、三、一六、四〇の1ないし5、四一、五七、六三ないし六九、七一、七二の1ないし3、七三ないし七七、一三七、乙二一、証人須田啓一の証言、原告志乃婦本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(一) 原告浩之(身長約一八〇センチメートル)は、本件事故後、直ちに宇都宮第一病院に救急搬送されたが、病院到着時から意識不明のショック状態にあり、CT上、びまん性軸索損傷とみられる所見があり、多発性脳内出血、脳室内出血が認められ、脳挫傷、意識障害、右血気胸、右第二ないし第五肋骨骨折、右肺挫傷と診断された。
原告浩之は、平成五年二月八日から平成六年四月一〇日まで宇都宮第一病院に入院したが(四二七日間)、入院中概ね次のとおりの状況を示した。
① 運動機能
四肢は拘縮し、伸展位をとり、左下肢のみ無目的な動きがみられる(運動麻痺は上下肢とも左右重度、筋緊張及び腱反射は上下肢とも亢進、筋萎縮は、上下肢とも左右に認められる。)。
② 舌、口蓋、咽喉頭筋機能
咀嚼障害、嚥下障害はないが、咀嚼不可能であるため、鼻腔からの経管栄養しか行えない。
③ 排尿、排便機能
大便失禁があり、カテーテルによる持続導尿を実施している。
④ 視機能
対光反応、瞬目反応はあり、開眼することはあるが、追視はせず、物の認識はできない。
⑤ 言語機能
全く発語せず、簡単な言葉の理解や呼名に対する返事はなく、命令には一切応じない。
⑥ 疼痛刺激
上下肢とも不動
⑦ その他
呼吸器に軽度の感染徴候があったほか、痙攣発作があり、気管切開を行い、臀部に褥瘡(床ずれ)があった(褥瘡治療に一年余りを要した。)。
(二) 原告浩之は、平成六年四月一一日上都賀総合病院に転院し、同病院に同年七月一六日まで入院し(九七日間)、その間、水頭症の治療と意識状態の改善を目指し、脳室腹腔シャント術を受ける等したが、意識状態に変化はなく、同年七月一四日症状固定と診断された。
原告浩之は、引き続き、他の病院に入院できるかどうかについて、五か所の病院に打診してみたが、症状の固定した患者は入院できない等の理由により、いずれも入院を断られ、さらに、自動車事故対策センター千葉療護センターへの入所も試みたが、入所人数が限られており、原告浩之は入院要件に該当しないとされたため、やむなく平成六年七月一六日自宅に戻り、それ以降、後記(三)の入院期間を除き、自宅療養を続け、現在毎週一回自宅において、上都賀総合病院の須田医師の地域巡回医療の往診を受けている。
(三) 原告浩之は、自宅療養後、次第に状態が安定したことから、平成七年六月一三日、試みに付近の老人ホームの介護(デイサービス)を受けたところ、帰宅後、嘔吐が続くようになり、翌一四日上都賀総合病院に検査入院したが、同月二五日ころ、痰が気管から肺に入ったことが原因と思われる肺炎に罹患し、一時危篤状態に陥った(現在、原告浩之が老人ホームのデイサービスを受けるには原告志乃婦の付添が必要となっている。)。原告浩之は、右入院中、看護婦が気管吸引をした際、喉に傷を生じさせたため、気管を切開し、チューブを装着した。原告浩之は、同病院に同年九月一四日まで入院した。
右入院した当時の原告浩之の状況は、須田医師によれば、血圧は正常(収縮期一一〇ないし一〇〇mmHg、拡張期八〇ないし七〇mmHg)で発熱なく、嘔吐、痙攣もみられない、気管切開を行い、気管カニューレ(シャーリー式)が挿入されており、若干の痰の喀出を認める、褥瘡は完治している、血液検査では貧血なく、肝機能、腎機能とも全く正常である。病状は重度後遺障害患者としては、非常に安定しており、現在の状態が続くことが予想される、と診断されている。
その後、原告浩之は、嘔吐を原因として平成八年二月九日から同月一四日まで上都賀総合病院に再入院したが、肺炎は起こさなかった。なお、上都賀病院に入院中、痙攣を二、三回起こしたことがあり、現在も痙攣防止のため、食後に抗痙攣剤を滴下して服用している。
(四) 原告浩之は、自宅において、主として、原告志乃婦(身長一五〇センチメートル、体重四三キログラム)の介護を受けていたが、原告志乃婦は、毎日の介護に体力の限界を感じ、平成八年一月九日から家政婦一名を日給一万〇二〇〇円で雇い入れ、家政婦の稼働中(午前九時から午後五時まで)は、家政婦とともに、その後は、主に一人で原告浩之の介護を行っている。
原告志乃婦らの原告浩之に対する介護の内容は、概ね次のとおりである。
① 粉末の食事(消化態経腸栄養剤エンテルード)を湯に溶かし、流動食にした上、イルリガートルと胃管カテーテルを用いて一回当たり二時間掛けて滴下し、これを一日三回(合計一六〇〇カロリー)行い、併せて水分補給を一日約三〇分行う。
② ベッドの側にいて原告浩之が窒息しないように呼吸を監視する。
その際、気管切開チューブ(シャーリー)から吸引カテーテルで痰や唾を吸引するほか(原告浩之は、当初風船付きのシャーリーを使用していたことから、喉の組織の壊死を防止するため、三時間おきにシャーリーの空気抜きが必要であったが、その後、痰と唾の量が減り、原告浩之がある程度自力で排出することが可能になったため、平成八年三月ころから、空気抜きの作業は必要なくなった。)、固まった痰等を柔らかくするため、ネプライザーで一日約四回喉に蒸気を入れる。
③ 小便の処置を一日約八ないし一〇回(合計約二時間)、大便の処置を一日一回五分ないし三〇分程度行う。
④ 褥瘡防止のため、体位交換、マッサージ等を一日約一〇回行う。
⑤ その他、適宜、衣類交換、洗濯等を行う。
(五) 主治医である前記須田医師は、原告浩之の現在及び将来の状況について、以下のとおり、判断している。
いわゆる植物状態患者の状態の良否は、①発熱の有無、②嘔吐の有無、③痰がからむか否かの三点で見るが、原告浩之は、いずれも非常に安定した状態にある。
仮に、いわゆる植物状態患者が痙攣を起こしても、静脈注射をすれば治まるので、一日に何回も頻繁に痙攣が起きなければ、脳障害を心配する必要はないところ、原告浩之のこれまでの痙攣は、かなりの間隔があった。
いわゆる植物状態患者に対する医療は進歩しており、いわゆる植物状態患者の余命を示すデータはなく、原告浩之は、年齢が若い上に、比較的最近治療して治療成績が上がっており、容態が非常に安定していることから、一〇年を超えて生きられる可能性は、十分ある。
2 右の事実をもとにして、原告浩之の現在の症状及び推定余命について検討する。
原告浩之は、植物状態にあるが、非常に安定した状態にあり、自宅療養中、肺炎に罹患し、一時危篤状態に陥ったことはあるが、その後は、嘔吐を原因とする数日間の入院があったものの、痙攣もみられず、発熱のほか、痰がからむこともないのであるから、いわゆる植物状態患者としては、安定しており、当分の間、生命の危険を推認させる事情は認められない。
したがって、症状固定時の原告浩之の平均余命については、平成六年簡易生命表二二歳男子の該当数値である、五五・四三年と推認するのが相当である(以下、五五年として使用する。)。
この点、被告は、乙二一(自動車事故対策センター作成の調査嘱託回答書)を主たる根拠として、一般的に植物状態患者の平均余命は一〇年程度であるから、原告浩之の余命についてもこれと同程度であると主張するが、同資料における、サンプル数は極めて少ないこと、いわゆる植物状態患者を巡る介助及び医療の水準は日進月歩であるというべきところ、同資料は、本件事故が発生した平成五年よりも古い平成四年三月三一日までの状況が示されているにすぎないこと、原告浩之は、前記のとおり、原告志乃婦らの手厚い介護を受けているほか、毎週須田医師の診療をも受けており、これまでの原告浩之の状況をみる限り、今後も異常があれば、直ちに医療機関の処置等を受ける態勢が整っていること等の状況に照らすならば、乙二一をもとに原告浩之の余命年数を推測することは相当でないというべきであり、この点の被告の主張は採用できない。
三 原告らの損害額について
1 治療費一八七〇万一〇三三円
(一) 宇都宮第一病院分
一四三四万六七八七円
(1) 被告既払分七九〇万一二一一円
当事者間に争いがない。
(2) 原告浩之支払分
六四四万五五七六円
甲六の1、2により認められる。なお、東芝健康保険組合の立替支払分についても、損害額に含めて算定した(以下、(二)(2)、(三)についても同様である。)。
(二) 上都賀総合病院
三九四万八八四二円
(1) 被告既払分 七六万六九四二円
当事者間に争いがない。
(2) 原告浩之支払分
三一八万一九〇〇円
甲六の1、2、七の2、3により認められる。
(三) 東芝病院分 二六〇四円
甲六の1、2により認められる。
(四) 柔道整復師(泰明堂)施術費(既払分) 四〇万二八〇〇円
甲五三、乙二〇により認められる。
2 文書(診断書)費、鑑定費用等 一〇万五七三〇円
甲一二の1、2、乙二〇、弁論の全趣旨により認められる。
3 付添介護費
七六一五万六六六二円
(一) 事故日(平成五年二月八日)から症状固定日(平成六年七月一四日)までの分 五一三万〇〇四七円
(1) 職業付添人分
三八三万四〇四七円
原告浩之は、宇都宮第一病院入院中の平成五年六月九日から平成六年四月一〇日までの間職業付添人の介護を受け、その費用として、右金額を負担したことが認められる(乙二〇、弁論の全趣旨)。
(2) 近親者付添分
一二九万六〇〇〇円
原告志乃婦本人によれば、同原告が平成五年二月八日から平成七年二月一一日までの七三四日間原告浩之の付添介護を行ったことが認められる。ところで、右(1)により職業付添人が介護した日数と重複する三〇六日分については、職業付添人以外に近親者の付添介護の必要性は認められない。
そして、近親者の付添介護費用は、一日当たり六〇〇〇円として(付添者一人分を相当とした。)、平成五年二月八日から平成六年七月一四日までの五二二日間中、前記三〇六日を控除した二一六日間について算定すると、一二九万六〇〇〇円となる。
(二) 症状固定日以降の分
七一〇二万六六一五円
原告浩之は、終生にわたり常時介護を必要とする状態にあり、甲六五、原告志乃婦本人によれば、原告浩之は症状固定日以後、原告志乃婦の介護を受けていたが、その後、平成八年一月九日からは職業付添人一名の介護を受けており、今後も原告志乃婦とともに職業付添人の介護を受けるべきことが認められる。
(1) 症状固定日から平成八年一月八日までの分 三二六万四〇〇〇円
近親者付添介護費用は、一日六〇〇〇円(付添者一人分を相当とした。)とし、五四四日間について算定すると、三二六万四〇〇〇円となる。
(2) 平成八年一月九日以降の分
六七七六万二六一五円
原告浩之は、平成八年一月九日当時二三歳であり、その平均余命は、平成七年簡易生命表男子二三歳の該当数値である五四年(年未満切捨て)であり、職業付添人の費用は、一日一万円(付添者一人分を相当とした。)とし、将来分についてライプニッツ方式により中間利息を控除して算定すると、次式のとおり、六七七六万二六一五円となる。
10,000円×365日×18.5651=67,762,615円
4 入院雑費 五三万九八三二円
入院雑費等として、原告浩之の請求額を認めることができる。
5 医師等謝礼二〇万〇〇〇〇円
弁論の全趣旨によれば、原告浩之は、宇都宮第一病院、上都賀総合病院に入院中、医師らに謝礼をしたことが認められる。入院中の原告浩之の前記の症状に照らし、このうち被告が負担すべき損害額としては、各病院ごとに一〇万円、合計二〇万円を認めるのが相当である。
6 家屋改造費
三四五万八一七六円
原告浩之は、前記のとおり全介助の状態であり、相当程度の家屋改造が必要であることが認められ、甲九、一七の1ないし五、一八ないし二一によれば、家屋の改造に六六二万五〇〇〇円、エアコン購入費用及び移設に四三万八五九四円、樹木及び庭石の移設等に二五万三〇〇〇円、カーテン購入等に五五万八二四九円を要したことが認められる。家屋の改造は、家屋の改良にもなることから、これらのうち被告が負担すべき損害額としてはその三分の一とするのが相当であり、本件事故と相当因果関係のある家屋改造費は、次式のとおり、三四五万八一七六円となる(一円未満切捨て)。
6,625,000円÷3+(438,594円+253,000円+558,249円)
=2,208,333円+1,249,843円=3,458,176円
7 備品代 二〇四万七七〇九円
(一) ベッド代
一二七万六八四六円
原告浩之は、終日寝たきりであり、身体障害者用ベッドが必要であると認められ、甲一〇、乙二〇によれば、原告浩之は、平成六年七月一五日ベッド一台を購入し、その際の自己負担額は、一台三四万二四一〇円であり、弁論の全趣旨によれば、今後も耐用年数の六年ごとに新たに購入する必要があることが認められるから、原告浩之の余命期間についてライプニッツ方式により中間利息を控除して算定すると、次式のとおり、一二七万六八四六円となる(一円未満切捨て)。
342,410円×(1+0.7462+0.5568+0.4155+0.3100+0.2313+0.1726+0.1288+0.0961+0.0717)=342,410円×3.729=1,276,846円
(二) 車椅子代五五万七一三四円
原告浩之は、四肢が麻痺しており、部屋間の移動等にはリクライニング式車椅子が必要であると認められ、甲一一、乙二〇によれば、平成六年一一月二四日車椅子一台を購入し、その際の自己負担額は、一〇万五六六八円であり、弁論の全趣旨によれば、今後も耐用年数の四年ごとに新たに購入する必要があることが認められるから、原告浩之の余命期間について、ライプニッツ方式により中間利息を控除して算定すると、次式のとおり、五五万七一三四円となる(一円未満切捨て)。
105,668円×(1+0.8227+0.6768+0.5568+0.4581+0.3768+0.3100+0.2550+0.2098+0.1726+0.1420+0.1168+0.0961+0.0790)=105,668円×5.2725=557,134円
(三) 点滴スタンド等医療器具代
二一万三七二九円
乙二〇、弁論の全趣旨により認められる。
8 将来的消耗品費
一三六万〇二三八円
自宅療養中の雑費の支出は、基本的には逸失利益の中から支出されるべきものであるが、原告浩之の状況によれば、紙おむつ等通常人には不要と考えられる物品であっても、日常生活をする上で必要と認められるので、一日当たり二〇〇円の範囲で損害と認めるのが相当である。原告浩之の余命期間についてライプニッツ方式により中間利息を控除して算定すると、次式のとおり、一三六万〇二三八円となる(一円未満切捨て)。
200円×365日×18.6334=1,360,238円
9 逸失利益
一億一九八一万〇九七九円
原告浩之は、本件事故当時、大学三年に在籍する学生であり、本件事故に遭わなければ、平成六年四月大学を卒業し、二二歳から六七歳に達するまでの四五年間就労可能であり、症状固定時の賃金センサス平成六年第一巻第一表産業計企業規模計大卒男子労働者全年齢平均の年収額である、六七四万〇八〇〇円を得ることができたと推認されるので、右金額を基礎とし、労働能力喪失率を一〇〇パーセントとしてライプニッツ方式により中間利息を控除して、四五年間の逸失利益の、症状固定時の現価を算定すると、次式のとおり、一億一九八一万〇九七九円となる。
6,740,800円×100%×17.7740=119,810,979円
この点について、原告浩之は、賃金センサスの全産業一〇〇〇人以上の従業員規模の企業の大卒男子労働者の全年齢平均給与額と同程度の収入を得ることができたと主張し、これに沿う証拠(甲五八、六三、原告志乃婦本人)もあるが、いずれも推測の域にとどまり、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。また、原告浩之は、中間利息の控除を年五パーセントでなく、実質運用利率によるべきであると主張するが、採用の限りではない。
なお、被告は、原告浩之の将来の生活に必要な費用は治療費と付添介護費に限定されており、労働能力の再生産に要すべき生活費の支出は必要でないから、生活費を控除すべきであると主張する。しかし、生活費は、必ずしも労働能力の再生産費用だけを内容とするものではなく、また、原告浩之は、今後も生命維持のための生活費の支出を要することは明らかである上、自宅療養中の雑費の多くは、逸失利益中から支出されることが見込まれる(前記8で認めた部分を除く。)から、逸失利益の算定に当たり、生活費を控除するのは相当でなく、被告の右主張は、採用できない。
10 休業損害(原告志乃婦分)
認められない。
原告志乃婦は、本件事故当時、パートタイムの仕事に従事していたが、本件事故により原告浩之が傷害を受けたことから、その付添介護を行うため、勤務先を欠勤したことにより収入相当分の休業損害を受けたというのであるが、近親者の付添介護費用は、前記3により考慮したので、さらにそれとは別に、近親者の休業損害について、本件事故と相当因果関係のある損害を認めるのは相当でない。
11 慰謝料
(一)原告浩之分
二九五〇万〇〇〇〇円
原告浩之の入院日数は、五二四日間と認められ、右期間の入院慰謝料として、三五〇万円を認めるのが相当であり、また、原告浩之の後遺障害の程度に照らし、後遺障害慰謝料として、二六〇〇万円を認めるのが相当であるから、その合計は、前記金額となる。
(二) 近親者慰謝料
合計四〇〇万〇〇〇〇円
原告浩之の後遺障害の程度からして、原告繁、同志乃婦は、同浩之の両親として、原告浩之の死亡に勝るとも劣らない精神的苦痛を受けたものと認められ、これに対する慰謝料として、原告繁、同志乃婦各二〇〇万円を認めるのが相当である。
12 小計
原告浩之分
二億五一八八万〇三六〇円
原告繁、同志乃婦分
各二〇〇万〇〇〇〇円
四 過失相殺
前記一記載の過失割合に従い、原告浩之の損害額から一〇パーセントを減額すると(原告繁、同志乃婦については、原告浩之の過失を被害者側の過失として斟酌する。)、残額は、次のとおりとなる。
原告浩之分
二億二六六九万二三二四円
原告繁、同志乃婦分
各一八〇万〇〇〇〇円
五 損害の填補
原告浩之が被告の自賠責保険及び任意保険から合計四五四三万一三一六円の填補を受けたことは、当事者間に争いがない。右填補後の原告浩之の損害額は、一億八一二六万一〇〇八円となる。
六 弁護士費用
本件事案の内容、審理経過及び認容額、その他、諸般の事情を総合すると、原告らの本件訴訟追行に要した弁護士費用としては、原告浩之分として、九〇〇万円、同繁、同志乃婦分として各三〇万円を認めるのが相当である。
七 認容額
原告浩之分
一億九〇二六万一〇〇八円
原告繁、同志乃婦分
各二一〇万〇〇〇〇円
第四 結語
以上によれば、原告らの本件請求は、被告に対し、原告浩之につき一億九〇二六万一〇〇八円、同繁、同志乃婦につき各二一〇万円、及びこれらに対する不法行為の日である平成五年二月八日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官飯村敏明 裁判官河田泰常 裁判官中村心)
別紙交通事故現場見取図<省略>